快適ライブチャット研究 - 黒衣のガール
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みう URL 2009-08-02 (日) 21:55

ハーイ(^O^)/
勿論お付き合いしますです♪
楽しみですわ★

azusa♪ URL 2009-08-03 (月) 10:17

楽しみにしてますね♪
いつ読んでも引き込まれるこの世界観!!
油断してるとのみこまれそうです><;

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:54

コメントありがとうございます。
お付き合い下さるとのコト、嬉しいです。
アメリカの三文サスペンスのような謎解きもありますので、
ゆっくりとお付き合いく下されば幸いです(笑)
よろしくお願いします。

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:56

コメントありがとうございます。
遅々とした更新ですが、気長にお付き合い下されば幸いです。
「引き込まれるこの世界観」というのは嬉しいです。
ぜひ、油断して、のみこまれて下さい(笑)

竹内なお URL 2009-08-04 (火) 21:04

こんにちは
タクさんのとこから飛んできました
有為さんは男の人なんですねぇ
ブログ色々読んでみましたが
なんか大人の女の人みたいです
まったりゆったりの余裕のある女の人な感じがして
激しく萌えたのは内緒の方向で
続き楽しみにしてます

2009-08-04 (火) 21:38

このコメントは管理人のみ閲覧できます

有為。 URL 2009-08-04 (火) 23:26

こんばんは。
コメントありがとうございます。
私、男なんです(笑)
おそらく、女性の作家から大きな影響を受けているので、文章が「それらしく」見えるのかもしれません。
実際は、「大人」でも「まったり」でも「ゆったり」でもなく、「ぼんやり」で「がっかり」な子供です。
こちらこそ、竹内なおさんの「溢れる文才」に嫉妬したため、この文章を書いたというのは内緒の方向でお願いします(笑)
引き続き、楽しみにして頂ければ、嬉しいかぎりです。


エヌ URL 2009-08-09 (日) 02:08

ああ、また時間が空いてしまいました。

自分の執筆にかまけて「巡回」を怠ると、「改訂」を見落とす反面
連載小説をまとめて読めるような「お得感」も覚えますww

今回も素晴しい情景描写と心理描写で
哲学的演繹と数学的論理命題を両立する文学的演出。
いつもながら平伏の想いです。

知らぬ間に現れる
巨大なパズルブロックを解き崩してやろうとして油断すると
後からさらに大きな「団塊」がスクロールしてくる・・・
有為さんの小説にはそんな「恐怖感」wwもあります。

しかしその文脈を「一筋の流れ」に読解できれば
素晴しい文学的ロジックと
美しい物語の結末に出会える。

詩とendのキャラクターに
「白桃のルール」のストーリーが交差する時
どんな「コペルニクス展開」を感ずる事が出来るのか
興味は尽きないですね。

#まだ待っていてもいいのですよね?ww

有為。 URL 2009-08-09 (日) 13:41

コメントありがとうございます。

お知らせすることもなく、ひっそりと更新しているので、追記に気付くのも大変だと思います。
申し訳ないです。

「哲学的演繹と数学的論理命題」というのは嬉しいですね。
実際、古今東西で「私は誰なのか?」という問いは繰り返されているわけで。

書き手が自分の書いた物を「解説」するほど自己愛に満ちたものはないのですが、恐れずに書けば――フロイトの精神分析が文脈に登場するのは「私は誰?」という問いを成立させるためです。つまり、「集合的無意識」を標榜するユングの批判として、詩と「end」はわざと「わたしはあなた」という問いが虚数解であっても成立することを語ります。
なぜ、集合的無意識を批判するのかと言えば、「end」の語る「性的抑圧が世の中からすべて取り除かれたとしても、アダルトライブチャットは存在する」という結論を導き出すためです。そして、それが最後に詩の書く「論文」へと繋がります。
この「黒衣のガール」は多少重層した構成があって、ヒントは「成瀬巳喜男生誕100周年」で、これは2005年に催されています。そこから計算すると――というのがミソです(笑)

おそらく、エヌさんは「end」の存在に気付かれていると思いますが、白桃のルールを読んでしまえば、ミエミエでしょうか(笑)

今回は登場人物の名前が大きな意味をもっていて。

郁美

end
おりひめ
というのが最初に考えていたものです。

アメリカの三文サスペンス、たとえば、精神病患者を治療している医師が実は、医師として振る舞うことによって、精神病患者としてカウンセリングを受けていたというような展開を考えていたのですが、終着地点をどうするか、再考中です。

続きはありますので、気長に待って頂ければ幸いです。

タクイチロゥ URL 2009-08-22 (土) 18:44

こんばんは。
有為さん、また体調とか悪いんですか?
忙しいだけならいいんですけど。
無事、コラボのエントリ期間終了しました。
いろいろとご無理も聴いていただき、ありがとうございました。
『黒衣の・・・』は引き続き楽しみにお待ちしていますね!

有為。 URL 2009-08-24 (月) 19:52

コメントありがとうございます。
私事でいろいろとありまして、ご心配をおかけしました。
コラボのエントリー期間に間に合わずに申し訳ないです。
とりあえず、細々と完成を目指しますので、ゆっくりとお付き合い下さい。
ありがとうございました。

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黒衣のガール


私が「誰」であるかを証明できないように、誰が「私はチャットレディー」であることを証明できるのだろうか?
私は――あたし、わたし、あなた、君、ぼく、彼女、彼?
私を知っているのは誰?


そして、その「はじまり」は今日のことなのか明日なのか、それとも昨日のことだったのかはっきりとはわからないのだけれど、また、一日のはじまりがはじまる。
私は今日の朝は「何」を食べたのだろうか? 何を? 今日の朝に私が食べたものは、ハムエッグと昨日の残り物でつくったワカメとエビのスープと桃だった。でも、昨日? 残り物? 私は昨日の夕食に何を食べたのだろうか? 
一昨日の夕食の献立ははっきりと憶えていて、鯖の味噌煮とアサリとキャベツのレンジ蒸しと小松菜のお味噌汁、昼食は生姜焼き定食、朝食はクロワッサンと大根と水菜のサラダと牛乳、そう、一週間分のレシピをきちんとノートに書き留めておけば、思い出せずに苛々とすることもないし、それに、冷蔵庫に何が残っているのかもわかるのだから、まずは、昨日、ピーコック・ストアか紀伊國屋か西友で何を買ったのかゆっくりと「文字」として真っ白なノートに書き付ける。
――卵8個、トマト3個、キャベツ1/4個、鯛の切れ身半切れ、アサリのパック、小松菜、お醤油、桃2個、ミネラルウォーター1.5ℓ、トイレットペーパー(お徳用)
アサリ? 小松菜? それは昨日ではなく一昨日の夕食の食材ではなかっただろうか? 私は昨日の夕食に「何」を食べたのかを思い出そうとしているのに、いろいろなことがはっきりとわからなくなる、そう、大切なのは落ち着いて一つ一つゆっくりと記憶を辿ること、昨日は何曜日? 水曜日、これだけは間違いない、だって、私の勤める大学の研究室の教授が担当する「社会心理学概論」の授業のある日で、いつも配布資料やら学生の出欠席の確認をするために授業に出なければならないのだから、それだけは憶えている。
「社会心理学概論」は退屈な授業で、いつも学生の大半が教授の話しなど聞かずに睡眠の時間にあてていて、私は眠っている学生を起こす役目も任されているから、教室のなかを歩いて――教室のリノリウムの床はヒールの固いパンプスで歩くとコツリコツリと音を立てて室内に響くからイヤなのだけれど――起きなさい、と夢の中(どのような夢を見ているのだろうか?)にいる女子学生に注意をし、眠っている男子学生に対しては近くに座っている女子に「あの子、起こしてあげて」と声をかける。
「フェミニストの、ジェンダー論社会学を専門に研究している女性」だから、男子が「嫌い」なのではなく、単に、実際の生活のなかで、男性と話すことも話しかけられることも、触れることも触れられることもイヤで、それは幼い頃から今まで変わらないことだから、きっとこれからもずっとそうなのではないか、と不安になるのではなく当たり前のことのように思っていて、小学生くらいの頃から、詩ちゃんは整った大人びた顔立ちをしているから、きっと美人になるね、と周りから言われ続けていたし、自分の端正な容姿を特別に意識することはなかったけれど、正確に言えば、認識してはいて、中学、高校、大学とずっと男子からまとわりつかれてうんざりすることが多かったし、今でも学会などに行くとただでさえ「美人研究者」などと囃し立てられ苛々するし、ジェンダー論を専門にしている男子は誰も彼も自分を「フェミニスト」と思っているのに「マッチョ」な考えをもっているから、「こんなに容姿と頭脳に優れている女性と結婚できる男性は幸せだな」などと平気で口にして、「結婚はまだ? 今、お付き合いされている男性はいらっしゃるの?」などと余計なことばかり話すので、私は社会的な「付き合い」以上の会話を男性とすることは避けている。だって、ね、本当に苛々するし、バッカじゃないかって思うし、ね。


私が「アダルト・チャットレディー」であることを、精神分析学者のジグムント・フロイトが『モーセと一神教』でモーセをエジプト人であると鮮やかに読み解いたように、誰か証明することができるのだろうか?
実際の生活では男性と関わりをもつことを極端に避けているのに、インターネットを通した「男性」と話したり性的なパフォーマンスを見せたりすることが平気なのは、きっと、ディスプレイ越しの「男」が性的な欲望をもった男性であり、男性的な男性であって、存在感というか体温や匂いやその他のあらゆるものが決定的に欠如しているからで、だから私は、男性会員に画面を通して笑いかけることができる。そう、実生活ではあり得ない満面の笑みを、見せることができる、こんにちは、こんばんは、はじめまして、と。
はじめまして、と声をかけてから、私はゆっくりと身につけている黒のキャミソールの肩口の紐のあたりを物憂げに触る。男性会員が画面の向こうで何を考えて何を思っているのか、それはわからないし、当たり前のことだけれど分析したり、考えたりすることもない。私がアダルトライブチャットに登録したのは、男性に性的なパフォーマンスを提供することで対価を得られる「仕事」だったからで、男性と余計な会話をしなくとも済むし、なかには「会話」そのものをコミュニケーション・サービスの一つとして楽しむ会員がいるのだけれど、そのときは相手が女子であると想像して話しをすれば大きな精神的なストレスにはならないから、ライブチャットという仕事は私に合っているのではないか、とふと思うことがある。
ライブチャットにログインするときには、決まって黒い服を着る。真黒な、そう、webカメラの照明の光線があたっても、画面を通して奥行きのない平板な「姿」であることを強調するための、黒――コム・デ・ギャルソンの川久保怜がヨーロッパのファッションデザインに鮮烈な印象を与えた、あの「黒」を私は着る。黒はすべての光を吸収し、熱を帯びて私を気持ちよくさせる。何もかもすべてを受け入れることの、あの快楽が私に黒い服を着させることを強い、肌が透けて見えることのない黒のキャミソールやチュニックやベビードールに私は守られながら、「女になる」のではなく「チャットレディー」になる。


私を知っているのは「誰」なのだろうか?
「フェミニストの、ジェンダー論社会学を専門に研究している女性」であることを知っているの誰なのだろうか? そして、私が「ウタ」という名前でアダルト・チャットレディーの仕事をしていることを知っているのは誰なのだろうか?
私は誰? あなたは誰? 私? あなた?


そして、また、ライブチャットのはじまりのはじまりがはじまる。
私は昨日、何人の会員とチャットをしたのだろう? どのようなパフォーマンスをして、どんな会員と「何」を話したのだろう? 憶えていることは、「激しくして」と言われたこと、「もっとバイブを激しく動かして」とか、「もっともっと気持ちよくなって」とか、「もっとエロく動いて、イッテね」という文字がチャット画面に表示されていたこと、誰かが「チャットレディー」の私に向けて書いた文字――誰かによって、「私」ではなく「ウタ」に向けて書かれた文字、情報としての文字が――
私は、また、黒の服を着る。はじめまして、こんばんは、こんにちは、と、「誰か」にまた笑いかけるために。
はじめまして、ウタ、と言います、よろしくね。


アルファベットの組み合わされた単語を、私はノートに書き写す。去年の歳末に閉店した自宅のマンションから近い商店街の文房具屋で、百本まとめて購入した一本百円のボールペンは、A4のノートに文字をびっしりと詰めて書けば、三頁ほどを埋め尽くすことができるのだから、今年になって私は二百八十五頁分の文字を、どこかに書きつけたことになる。
水性のボールペンで、私はその日にチャットをした会員のハンドルネームを丁寧にノートに書き写す。アルファベットの組み合わされた「名前」は、会員の個体を識別するためのものではなく、チャットに存在した、あるいは存在していることを示す「記号」であって、ハンドルネームを見ていると、私はDNA配列の塩基を想像してしまう。四種類の記号によって無限に広がる多様な配列。
私は、昨日チャットをした会員のハンドルネームを水性のボールペンでノートに書き写す。昨日? そう、昨日は水曜日のはずで、大学の研究室から自宅に帰ってきた後、鯖の味噌煮とアサリとキャベツのレンジ蒸しと小松菜のお味噌汁を食べて、いやそうではなく、アサリと小松菜のトマトスープのパスタと鯛の酒蒸しとワカメスープを昨日の夕食に用意をしたのではなかったのだろうか? 私は昨日の夕食に何を食べたのだろう?
ノートの最後に「end」と記し、ボールペンの動きを止め、ゆっくりと昨日の献立を思い出そうとすると、一昨日のことも一週間前のこともはっきりとわからなくなり、私は「今」ノートに書いた「end」というハンドルネームの会員と昨日の最後にチャットをしたのかどうか、確信がもてなくなる。
「終わり」と「目的」という二つの意味をもつ「end」という言葉をハンドルネームにしているその会員は、私がはじめて「まともな」チャットをした相手だった。二年前、そう、それだけははっきりとしていて、成瀬巳喜男の生誕百周年記念として東京のフィルム・センターで特集上映を観た後で、私はチャットレディーになることを決めたのだから、そう、「end」という会員とはじめてチャットをしたのは間違いなく二年前のことだったはずだ。


チャットレディーとして仕事をはじめたばかりの頃、私はチャットで挨拶が必要だとは考えていなかった。コミュニケーションをとることではなく、会員は女性の性的なパフォーマンスを求めてサイトを利用するものとばかり思っていて、会員がチャットにログインしたことをパフォーマー側に知らせる機械的な音が鳴ると、私は着ている黒のキャミソールを何も言わずに脱ぎ、指で女性の性感帯と一般的に考えられている部位に触れ、擬似的なマスターベーションを画面に映す、という「パフォーマンス」を繰り返していたため、ログに反応しない私に呆れた会員はしばらく経つと無言でログアウトしていった。
挨拶をする必要がある、と私に教えたのは「end」で、会員とコミュニケーションをとろうとしない私に、どのように会話をすれば男性が喜ぶのかなどのチャットの手解きをしてくれたのもその人だった。
――女の子のエッチなところを見るためだけにライブチャットを利用している、という男性ばかりではないから、ウタさんのようなチャットを続けていると、またこの子とチャットしたいと思う男性は少ないと思うよ、残念だけどね。実際の生活で「はじめまして」と挨拶するように、二人が楽しい時間を過ごすために、チャットでも挨拶や会話はどうしても必要だから。相手の会員が何を求めているかを知るためには、コミュニケーションをとって、お互いのことを少しでも理解しようとしなくちゃいけない、そう思うけれどね。
実際の生活のなかで、仕事上の付き合いを除いてほとんど男性に「挨拶」をしたことがない私にとって、「end」の話しは興味深かった。すぐに会員が無言でログアウトしてしまうのは、私の性的なパフォーマンスに魅力がないからだとばかり考えていたため、ライブチャットでも会員とコミュニケーションをとらなければならないと知ったとき、私は憂鬱な気分になり、自分にはアダルト・チャットレディーの仕事は向いていないのだ、と痛感した。
――そんなにむつかしく考える必要はなくて、そう、たとえば、「はじめまして、ウタです、よろしくね」とか、それくらいの挨拶で十分だし、会話といっても普通に知り合いの人と世間話をするような感覚で話せば問題はないんだよ。ほら、お友達とどうでもいい話題で気軽に盛り上がる、そういう感じでね。
それから、そう、私は会員がログインすると、「はじめまして、ウタです、よろしくね」と話すようになった。


どうして私が「end」と話すようになったのか、そうではなく、チャットをしているときに「私」が「end」に話しかけたのではなかっただろうか、そう、あなたはどうして「end」という変わったハンドルネームをつけたの? と、私が話しかけたのだ。
「end」は私の質問に対して間を置かずに、素早くタイピングし、まるで最初から答えが用意されていたかのようにスムースに「理由」を説明する。
――私がこのサイトに登録したのと同じ日に、新人チャットレディーとしてサイトにログインしている君を見かけた。「新人」というのがどれくらいの期間を表しているのかはわからないけれど、私は勝手に君のことを同じ日に登録した「戦友」ではないかって思い込んだ。それで、「end」というハンドルネームをつけたんだ、君がチャットレディーを辞めるときが私にとってライブチャットそのものの「終わり」だという意味で。もちろん、はじめは冗談半分でつけたものだけれど、君とチャットをしてみて、私は間違ってはいなかった、と、今はそう思う。
「end」のタイピングする文字をきっちんと見るために、ソファ・ベッドから起き上がり前傾姿勢でパソコンに向かっていることに驚きながら、私は「戦友? あなたはあたしとおんなしなの?」と尋ね、答えが返ってくることはないと思いながらも「ねぇ、あたしは誰?」と続ける。一瞬の間があって、「end」の打つ新しい文字がログとして表示され、私はごく軽いめまいの感覚を憶える――痛みのない頭痛のような甘美なめまい。

――君は私、そして、わたしはあなた。だから、二人は戦友なんだ。

後頭部の皮膚の部分が腫れあがっているような重ったるい感じの、生理痛のときに起こる鈍い頭痛のような痛みは、ディスプレイに映し出されてかすかにゆらゆらと動いているのではないかと錯覚する文字を見続けているうちにひどくなり、バファリンとかの市販の痛み止めを飲まなければと思いながらも、夕食として胃の中で胃液と混じり合っているはずの食物が消化されずに液体のなかで転がり、咽喉の奥へと上がってきそうになるのを唾を飲み込むことで抑え、私は、カラカラに渇ききって舌と口蓋がひりついた口腔を開き、あなたは誰? と尋ねる。
空調はきちんと利いて――エア・コンディショナーの鈍い振動音が聞こえて、その音も頭痛を刺激する――いるのだし、ユニットバスの軽い引き戸はしっかりと閉めたはずなのだから、重ったるい湿った空気が室内に溢れているのはなぜなのかわからないし、外では雨が降っているのだろうか? カーテンの外の窓ガラスを雨が叩く音は聞こえないのだから、水のなかで溺れているようなこの息苦しさは私の身体の水分が外へと溢れ出そうとしているのかもしれない、と凡庸なイメージにとらわれ、短い間隔で呼吸を繰り返しながら、画面を、「end」の書いた文字が表示される画面を見つめ、見つけ続ける。

――私は君、そして、わたしはあなたになり、あなたはわたしになる。君は誰?

私は誰? 私は名前もチャットレディーとしてのハンドルネームもわからなくなり、「あたしは」と渇いた口腔からかすれた声を出し、その後を続けられずに息苦しさに目を開けていることができず、水のなかで、海のなかで、溺れて身体の重さで深く深い海底へと沈んでいくように、どこまでもどこまでも落ちていく。甘美な落下は、私の身体の力を自然と抜き、ゆらりゆらりと浮遊するような感覚を与え、閉じられていた瞼に柔らかな光線が差し、音が、シャープな音が聞こえる。
雨の音――外では雨が降っている。


コクヨのノートに「end」と記された「私」の文字を見つめ、水性のボールペンで「イコール」をそれに続けて書き足し、さらに、「uta」と書く。そして、「I」と「You」を間隔を空けて書き、間に「イコール」を加える。
「I=You」
イコールとは何? 私とあなたを結びつけるもの、それは何?


対数も関数も、微分積分も確立統計も得意だったし、もともと数学は嫌いではなかったから、問題に対してどのように論理的にアプローチし解を導きだすか、その筋道を立てて考えることも苦ではなかったはずなのに、私は簡単な数式「わたし=あなた」を解くことが出来ずにいる。「I=You」の解はきっと、「存在しない」のではなく「存在する」のだから、おそらく虚数解で、答えがないのではなく、あり得ない答えが「ある」のだ、と私は考える。
その虚数解に私は辿り着くことができるのだろうか、いや、そうではなく、あなたに辿り着くことができるのだろうか、いや、それでさえもなく、私は「わたし」に辿り着けるのだろうか? 私は誰? という問いに私は答えることができるのだろうか?
A=B、というのは、原因と結果としてのB=Aを証明しているわけではないから、と「end」は言い、それはフロイトの精神分析学? と私が尋ねると、いくらかの間があって、よくご存知で、とタイピングの文字が画面に表示される。
声など知らないのに、柔らかい、そう柔らかい言葉で――たとえば、成人してから動物虐待の性衝動にとらわれている人が、幼少の頃にトラウマになるような心的なストレスや性的な抑圧を受けていたとして、動物虐待の遠因として幼少の頃のアレコレが導き出されたとしても、それでは、幼少の頃に性的な抑圧を受けた少年少女がすべて「動物虐待者」になるとは限らない、ということをフロイトはどこかで書いていて、つまり、精神分析は「分析」の結果として原因を突き止めることができたとしても、それがすぐさま「精神的な治療」の役に立つわけではない、ということなんだよ。Aという事象の原因がBであったとしても、Bという原因を取り除けば、Aという事象が起こらないという保証はどこにもないのだから。
だから、そう、と「end」は書き、書き続ける――だから、そう、アダルトライブチャットに登録している男性のすべてが性的抑圧の解放を目的としてサイトにログインするわけではなくて、言い換えれば、私たちの性的抑圧が世の中からすべて取り除かれたとしても、そう、アダルトライブチャットサイトは必ず存在して、誰かがパフォーマンスをして、誰かがそれを楽しむ、そうした需要と供給は決して原因と結果の二元論には当てはまらないじゃないか、と思うけれど。
「end」の言葉は、私にとってはつねに虚数解で、簡単に解き明かすことができない。論理命題を単純化するために、私は「end」に尋ねる。
あなたはここで、性的な抑圧を解放しているわけではないの?
「end」は文字の、書かれた文字の官能性を十分に認識しているように、タイミングを図りながら言葉を区切り、書く――私は、性的な解放感を今まで味わったことがないんだ、アダルトライブチャットは「擬似セックス」をひとつのサービスとして提供しているサイトではあっても、そのパフォーマンスを見たからといって、自分自身の性的な興奮を解消できるのか、正直に言えば、わからない。あなたはならわかると思うのだけれど、私は実生活において、性交の経験がないんだ、残念ながら。


私は真っ白なノートに、一週間の献立でも、チャットをした会員のハンドルネームでも、「end」と話したアレコレのメモでもなく、研究成果を発表するための論文の草稿を書き始める。どこまでも続く長く息苦しい時間――正確に書くならば、一本百円で購入した百本の水性ボールペンのうちの残っている五本のなかの一本を取り出し、文字を書くときに指がすべらないように加工されたプラスチックの細かな襞状の部分を親指と人差し指でつかみ、中指で支えながら、論文という文章の息苦しさに、そうではなく、言葉を書き付けることの息苦しさに「水に溺れるように溺れ」ながら、タイトルを書きはじめる。
「ジェンダーとセックスの差異について――アダルトライブチャットにおける実践的論考」といくらか知性に欠ける――ジェンダーとセックスの差異などはさまざまに書きつくされているのだから、そう、すべての、あらゆる小説が既に書かれてしまっているように、ありふれた魅力に欠けたタイトルであることは確かなのだが――タイトルを、ボールペンが紙の上をはしる、水性の黒のインクを押し出すセラミックボールと紙とが擦れるかすかな「しゅっしゅっ」という甘美な音を聞きながら、私はゆっくりと文字を書きはじめる。ライブチャットの画面に表示される会員のタイプする文字のように、言葉の意味を相手に伝えるだけではなく、ただそこに、ポツリと真っ白な肌にひとつだけ残る虫さされの跡に似た唐突さで、単に存在するという、そう、虚数解の言葉を私は「誰かに何かを伝えるためではなく」て、言葉を、ありえない言葉をそこに存在させるためだけに、水性のごく軽い重量のボールペンで書きはじめる。


「女性性としてのジェンダーの概念ではなく、アダルトライブチャットにおいては、性的なパフォーマンスをする、つまりはセックス(性)の対象としての女性が存在し、インターネットを介した匿名性のなかで、社会性――ここでは、性別や年齢、国籍などの先天的なものだけではなく、あらゆる社会性を考慮した上で――が極端に消失または減じている状態を保持することで、オトコとオンナの性的な関係がクロース・アップされる。『女は女に生まれるのではなく、女になるのだ』というボーヴォワールのあまりにも有名な言葉を引き合いにだすまでもなく、アダルトチャットレディーは、ジェンダーという概念のなかでの女性としてサイトに登録しパフォーマンスをするのではなく、セックスとしての女になるのだ、と言える」と、私は論文のどこかで書くはずだし、書かなければならないのだけれど、ボールペンの柔らかな動きを止めて文章を頭のなかで構成していると、ふと、「end」のあの言葉が私をとらえる。
――私は実生活において、性交の経験がない
私? それとも、それはあなた? そうではなく、それは「私」であり、あたしのことなのだろうか?
「私」はゆっくりと女性性というセックスとしての「性交の経験」について思い出そうとする。私は性交の経験があるのだろうか? 今まで、性交の経験があったのだろうか?
解を求めながら、私は「黒」のコットン地のドレス風ワンピースの肩口をゆっくりとつまみ、皺を整えてから、もう一度、簡単なはずの問題を声に出して復唱する。
私は処女なのだろうか? それとも「既に」男性との性交の経験があるのだろうか?












というわけで、今回の記事は、「ライブチャット用語集・・・初めてのライブチャット入門」の管理人タクイチロゥさんが主催する企画、「第一回 読むだけでイケる官能小説コラボ」に参加させて頂くために書いたものです。


前回の「白桃のルール」とつながりのあるストーリーとなっていますので、興味のある方はそちらもお読み頂ければ、幸いです。
また、このストーリーには続きがありますので、この記事のなかで追記していきます。
おそらく、ふたつのストーリーが交わる地点で、怒濤の官能が、と、書き手も期待しています(笑)
完成までお付き合いして頂ければ、幸いです。


この記事は、官能小説コラボに参加しています。


官能小説コラボ-その1





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みう URL 2009-08-02 (日) 21:55

ハーイ(^O^)/
勿論お付き合いしますです♪
楽しみですわ★

azusa♪ URL 2009-08-03 (月) 10:17

楽しみにしてますね♪
いつ読んでも引き込まれるこの世界観!!
油断してるとのみこまれそうです><;

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:54

コメントありがとうございます。
お付き合い下さるとのコト、嬉しいです。
アメリカの三文サスペンスのような謎解きもありますので、
ゆっくりとお付き合いく下されば幸いです(笑)
よろしくお願いします。

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:56

コメントありがとうございます。
遅々とした更新ですが、気長にお付き合い下されば幸いです。
「引き込まれるこの世界観」というのは嬉しいです。
ぜひ、油断して、のみこまれて下さい(笑)

竹内なお URL 2009-08-04 (火) 21:04

こんにちは
タクさんのとこから飛んできました
有為さんは男の人なんですねぇ
ブログ色々読んでみましたが
なんか大人の女の人みたいです
まったりゆったりの余裕のある女の人な感じがして
激しく萌えたのは内緒の方向で
続き楽しみにしてます

2009-08-04 (火) 21:38

このコメントは管理人のみ閲覧できます

有為。 URL 2009-08-04 (火) 23:26

こんばんは。
コメントありがとうございます。
私、男なんです(笑)
おそらく、女性の作家から大きな影響を受けているので、文章が「それらしく」見えるのかもしれません。
実際は、「大人」でも「まったり」でも「ゆったり」でもなく、「ぼんやり」で「がっかり」な子供です。
こちらこそ、竹内なおさんの「溢れる文才」に嫉妬したため、この文章を書いたというのは内緒の方向でお願いします(笑)
引き続き、楽しみにして頂ければ、嬉しいかぎりです。


エヌ URL 2009-08-09 (日) 02:08

ああ、また時間が空いてしまいました。

自分の執筆にかまけて「巡回」を怠ると、「改訂」を見落とす反面
連載小説をまとめて読めるような「お得感」も覚えますww

今回も素晴しい情景描写と心理描写で
哲学的演繹と数学的論理命題を両立する文学的演出。
いつもながら平伏の想いです。

知らぬ間に現れる
巨大なパズルブロックを解き崩してやろうとして油断すると
後からさらに大きな「団塊」がスクロールしてくる・・・
有為さんの小説にはそんな「恐怖感」wwもあります。

しかしその文脈を「一筋の流れ」に読解できれば
素晴しい文学的ロジックと
美しい物語の結末に出会える。

詩とendのキャラクターに
「白桃のルール」のストーリーが交差する時
どんな「コペルニクス展開」を感ずる事が出来るのか
興味は尽きないですね。

#まだ待っていてもいいのですよね?ww

有為。 URL 2009-08-09 (日) 13:41

コメントありがとうございます。

お知らせすることもなく、ひっそりと更新しているので、追記に気付くのも大変だと思います。
申し訳ないです。

「哲学的演繹と数学的論理命題」というのは嬉しいですね。
実際、古今東西で「私は誰なのか?」という問いは繰り返されているわけで。

書き手が自分の書いた物を「解説」するほど自己愛に満ちたものはないのですが、恐れずに書けば――フロイトの精神分析が文脈に登場するのは「私は誰?」という問いを成立させるためです。つまり、「集合的無意識」を標榜するユングの批判として、詩と「end」はわざと「わたしはあなた」という問いが虚数解であっても成立することを語ります。
なぜ、集合的無意識を批判するのかと言えば、「end」の語る「性的抑圧が世の中からすべて取り除かれたとしても、アダルトライブチャットは存在する」という結論を導き出すためです。そして、それが最後に詩の書く「論文」へと繋がります。
この「黒衣のガール」は多少重層した構成があって、ヒントは「成瀬巳喜男生誕100周年」で、これは2005年に催されています。そこから計算すると――というのがミソです(笑)

おそらく、エヌさんは「end」の存在に気付かれていると思いますが、白桃のルールを読んでしまえば、ミエミエでしょうか(笑)

今回は登場人物の名前が大きな意味をもっていて。

郁美

end
おりひめ
というのが最初に考えていたものです。

アメリカの三文サスペンス、たとえば、精神病患者を治療している医師が実は、医師として振る舞うことによって、精神病患者としてカウンセリングを受けていたというような展開を考えていたのですが、終着地点をどうするか、再考中です。

続きはありますので、気長に待って頂ければ幸いです。

タクイチロゥ URL 2009-08-22 (土) 18:44

こんばんは。
有為さん、また体調とか悪いんですか?
忙しいだけならいいんですけど。
無事、コラボのエントリ期間終了しました。
いろいろとご無理も聴いていただき、ありがとうございました。
『黒衣の・・・』は引き続き楽しみにお待ちしていますね!

有為。 URL 2009-08-24 (月) 19:52

コメントありがとうございます。
私事でいろいろとありまして、ご心配をおかけしました。
コラボのエントリー期間に間に合わずに申し訳ないです。
とりあえず、細々と完成を目指しますので、ゆっくりとお付き合い下さい。
ありがとうございました。

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