快適ライブチャット研究 - 白桃のルール
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タクイチロゥ URL 2009-08-01 (土) 10:02

> おそらく、これから怒濤の官能シーンが(笑)


読者の想像の余地を残さない程の細かい描写力で、
どれだけ妄想させていただけるか!?
相反することを言ってるみたいですが、そこにこそ
有為さんの真骨頂があるのでは?
・・・と非常に期待していますです☆

急なリクエストに答えていただき感謝です!

すず URL 2009-08-02 (日) 01:47

「白桃」と言う言葉はエロっぽいので
好きな言葉です☆

このタイトルにどういう深い意味があるのか
はたまた白桃はエロにどういう風に関係あるのか
続きが楽しみです☆

有為。 URL 2009-08-02 (日) 03:13

コメント、ありがとうございます。

こちらこそ、途中の段階でトラックバックしてしまい、申し訳ありません。
「細かな描写」が読んでいる方のさまざまな記憶と結びついて、素敵な「妄想」になることを目論んではいます(笑)
プツプツと泡立つ記憶と文章――そうしたものが少しでも表現できていればよいのですが、なかなかむつかしいですね。

期待に応えられるよう、頑張ります(笑)


有為。 URL 2009-08-02 (日) 03:16

コメントありがとうございます。

桃、という言葉が好きなので、よく文章に登場させてしまいます。
あの、甘美な形と色と味――などと書くとまた描写してしまいそうになるので、ここで止めておき(笑)

タイトルに目をつけられたのは、さすが、鋭いですね。
驚きました。
このストーリーはこの次にアップされている『黒衣のガール』とつながっています。
白桃と黒衣がエロとどのような関係があるのかは今後のお楽しみということで(笑)

azusa♪ URL 2009-08-02 (日) 08:46

続き楽しみにしてますね♪
読んでるだけで映像が浮かんでくるような不思議な感覚・・・
惹きこまれてました!!
今もまだ文章の中を泳いでいるような・・
このフワフワ感がたまりません><;

有為。 URL 2009-08-02 (日) 09:43

コメントありがとうございます。
「続きを楽しみにして」いると言ってもらえて、嬉しいかぎりです。
書く、モチベーションが上がります、単純なので(笑)

「文章の中を泳いでいるような」という比喩は、とても素敵で、ありがたいです。
一つの文が長いので、読みにくいかとは思いますが、「フワフワ」という感じをもってもらえたなら、幸いです。

みう URL 2009-08-02 (日) 21:50

桃、食べたくなっちゃいました♪
しかし本当に情景を細かく書けるお方ですね。
みうには絶対無理ですぅ
(● ̄▽ ̄●;)ゞぽりぽり
読んでいて綺麗なお姉さんを思い浮かべていました。

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:52

コメントありがとうございます。
「桃が食べたくなった」と感じてもらえたら、書き手としては嬉しい限りです。

みうさんのように、きちんと正確に言葉で情景を表すことができれば、それが一番だと思います。
この文章はいくらか「冗長」過ぎますから(笑)

私もキレイな「お姉さん」を想像して書いています(笑)

エヌ URL 2009-08-04 (火) 13:26

あああ!
遂に「ジェンダー論者」のウタさん登場でたまらなくなりました!

上手い!!上手過ぎる!!!十万石饅頭の様に、いやいや
「白桃のタルト」の様に薫る少女の首筋。その白さ。
歯科医にされるがままに開かれた少女の桃色の口腔の腫れ。

「性行為」を感じさせない筈の「医療行為」にエロスが・・・
まるで映画のように「白衣」と「銀食器の輝き」と「ピンクの少女の肉」だけの
色彩が鮮明に画面を横切っていきます。

物語が一旦区切りを見せたようでしたので失礼ながらコメントしました。
この先物語が絡んでいくのか・・・興味は尽きませんが。

#ああ「黒衣のガール」読むのが楽しみ・・・ww

RMKS:先週私も「抜歯」しましてww暫くは痛みで何も出来ませんでした。
     両下奥歯の「親知らず」に至っては、過去「口腔外科」等と言う恐ろしい医療機関で
     ゴーグルをした医師に機械で「摘出された」経験がありますww

#全然カンケー無いすね;;

RMKS2:コチラのサイトも同じテンプレートになりましたね。

有為。 URL 2009-08-04 (火) 23:22

コメントありがとうございます。

少女の桃色の腫れは、どうしても書きたかったので、初体験の相手が歯科医師になりました(笑)

私たちはいろいろなところで性行為を擬似体験しているわけですね、多分。
私も歯垢とタールの除去のため、定期的に歯科に通っています。
理由は単純で、担当の歯科医師が女性なのです(笑)
無防備な状態の口を「治療」されるのは、いろいろな意味でイタイ、です。

テンプレートの変更ですが、コレは自分自身が文章を読みやすくするためです。
以前のものは、少し横幅があり過ぎて、ストーリー系のものだと読みにくかったので・・・
コレで少しでも読みやすくなったのなら、嬉しいです。


エヌ URL 2009-08-09 (日) 02:27

しばらく買わなかった週刊誌の漫画が
最終回を迎えて、それをコミックスとして手に取る。

結末迎えましたね。おめでとうございます。
コチラのストーリーには残念ながら「怒涛の官能シーン」wwは無かったようですが
最後の郁美ちゃんの独白に可愛らしさと
「おとなの女の入り口」を感じて、寂しささえ覚えました。

粘膜の接触である歯科医療と性行為が
こんなにも近しいエロティシズムを感じさせてくれるのも
新しい発見でした。

願わくば「白桃」の白いままの香りだけを
いつまでも楽しみたい。

有為。 URL 2009-08-09 (日) 13:49

コメントありがとうございます。
やはり、怒濤の官能シーンはむつかしいですね(笑)
一応、エロティシズムには配慮はしましたが。

この「白桃のルール」に登場する綾と郁美の家庭は、ある程度裕福なものを想定しました。
まぁ、グローエの水洗がある家、なわけですから(笑)
とくに、郁美はアダルトチャットレディーとして仕事をする特別な理由などはないのです。
だけれども、何かに惹かれるようにその世界に脚を踏み入れる。
そう、初体験のように。
「おとなの女の入口」であると同時に、出口のない私という存在を強調させたく、ああした最後の独白を加えました。

「歯科治療と性行為」は確かに近しいエロティシズムがありますよね。

空気に触れさせずに、桃の実の色や香りを楽しむためには、皮をむかずに想像するしかない、というのが「ルール」ではあるのです(笑)


タクイチロゥ URL 2009-08-10 (月) 19:58

まずは、本作品は完成とのこと、お疲れ様でした☆
オシャレ用語に疎いので(常識知らずとも言うかもw)、作品を印刷してググりつつ頑張っとりますw
でもね!縦書きにして印刷したら、もうそのまま出版できそうな!
13,000文字オーバーの大作でした。
「黒衣の…」読了次第感想書かせていただきますね!
風邪のほうはいかがです?
コラボ期間気にせず、ご自愛くださいませ。

有為。 URL 2009-08-11 (火) 00:49

タクイチロゥさんへ
コメントありがとうございます。
いえいえ、オシャレ用語というか、裕福な家庭を描きたかったのと、後は個人的な趣味です、すみません(笑)

13000字もあったんですか、それはわからなかったです。
「黒衣の~」はゆっくりと完成を目指します。
風邪は大分治まりまして、本日と明日は仕事です。
また、お盆休みに入ったらゆっくりとしようかな、と思っています。
ご心配、ありがとうございました。

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白桃のルール


いくらか粒立った白い筋がステンレス製のシンクに落ちるグローエのキッチン用水栓の口を閉めて、黙ってないでさ、さっきのアヤちゃんの話し、イクミちゃんはどう思う? コール・アポインターだかテレフォン・レディーだかチャット・ガールだかって仕事のコト、と、母親は、一年前から同年代の女友達と通っている「スイーツのお料理教室」で先週習ったばかりという「白桃のタルト」の盛り付けられたオフホワイトの小さな陶器製の縁を、折り目の細かい白色のナプキンで丁寧に拭いてテーブルに出しながら言い、タルト生地とカスタードクリームの上にのせられた白桃がダイニングのペンダント・ライトの光線に反射してつやつやとしていて、見るともなく見惚れていると、ねぇねぇ、上出来だと思わない? はじめてにしては、って感じでさ、といかにも満足気に細い顎を少しだけ突き出し、そうだ、イクミちゃん、折角だからさ、このタルトをアヤちゃんに届けてあげてよ、どうせ(ふん、と整った鼻筋をピクリと震わせて)さ、夏季休業に入って家でダラダラとしてるなら、たまには(ふん、ふん)さ、お姉ちゃんの部屋に顔を見せに行ったって「バチは当たらない」し、ちゃちゃっと洗濯や掃除やらの家事を片付けてあげれば、「上出来」な妹って感謝されるはずだと思うよ、ねぇ、そうしなよ、と続け、白桃のタルトを早く食べたいからではなく、このところどことなく口調が母親の声色に似てきているのではないか、というかすかな不安に少しだけ苛々としながら、姉の綾に会うのはどれくらい振りになるのだろう、と郁美は考える。


「白桃のタルト」の味はともかくとして、母親のつくった料理を食べるのはどれくらい振りになるのだろうか、と、姉の綾は、小さなステンレス製のフォークを細かな透明な筋が表面に浮かんでいてぷっくりとした唇にあてて、う~ん、と一唸りし、小指と薬指の間に器用にフォークを挟んで指折り数を数えはじめ、あ、確定申告でいろいろと必要な書類をつくるために一度家に帰ったから、それ以来とすると、と閉じられていた指を開いてから、半年も経ってないんだね、と笑い、それにしてもさ、とゆっくりと白桃にフォークを刺して口元に運び、それにしてもだよ、お母さんはあたしの仕事のコト、全然わかってないんだね、そのうちさ、コール・ガールとかって言いそうだしね、と白桃を口にし、美味しい、と一声上げてから、あんたもさ、お母さんがアヤフヤなことを言っていたら、きちんと「チャット・レディー」って訂正しといてよね、恥をかくのはあたしじゃなくって、お母さんなんだから、さ、と姉は郁美の二の腕のあたりをフォークでちょっと突いて、ゆっくりと溜息をつく。
妹が久しぶりに顔を見せにきたのだし、パソコンの画面に目を凝らしている時間が長いから肩凝りがひどくて、どうも料理をつくる気分ではないし、そりゃ、あんたがつくってくれて上げ膳据え膳なら話は別だけれど億劫だから、夕食は店屋物で済ませてしまえばいいよね、外に出るのも、まぁ、女の子だから「すぐに」ってわけにはいかないし、と薄手の光沢紙にさまざまな中華料理の並んだパンフレットを無印良品で買ったタモ材の机の引き出しから取り出して郁美の前に放り投げ、好きなモノを注文していいから、と、綾は言い、夏休みっていってもどうせ(と母親にそっくりに鼻を鳴らし、イヤなところばっかり似ている)さ、あんたはバイトもせずにそうしてフラフラとしているのだから、今日はあたしの驕りでいいから、と続けてから、一人暮らしにしては埃の溜まっていないフローリングの床にごろりと横になり、ココに来てからあんたはまだ何にもしてないんだからお店に電話くらいかけてよ、という嫌みにムッとして、テーブルの上でそのままになっているケーキの小皿やら何やらを、注文する料理が決まったら流し台で洗おうと思っていたのだ、と郁美は言おうとしたけれど、折角奢ってくれると言うのだからと思い留まり、姉が気分を害さないように「お姉ちゃんはもう決まったの?」と努めて穏やかな調子――大学の心理学の授業でアシスタントをしていて、男子学生にも人気のある助手の女性(フェミニストのジェンダー論者で20代前半)が退屈な教授の話しについ眠気を誘われて机に突っ伏している女子学生に、起きなさい、と優しい声音で語りかけるのだけれど、同じ講義に出ている女友達は、ねぇ、あの人ってさ、「男」にまったく興味がないって感じだけれど、妙に艶のある声であたしたちに話しかけるよね、アレだけ整った顔立ちとスタイルだから、やっぱり男性経験が豊富なのかな、といくらか嫉妬の混じった声で話す――で言うと、さっきまで話していたのに姉はかすかに寝息を立てていて、もちろん、起きてよ、と声はかけずに、宅配中華ではなく、抽斗に覗いていたお寿司屋の型紙の薄い橙色のいくらか品の欠ける「お品書き」を勝手に取り出して、お店の電話番号を間違えないようにゆっくりと慎重に確認しながら、携帯電話のプッシュボタンを押す。
真っ赤とまではいかなくとも濃い色のイクラの軍艦巻きを人差し指と親指で柔らかくつまみ、ぷちぷちとした食感を舌で楽しみながら、新鮮で美味しいお寿司を妹が「わざと」間違えて注文をしても一言も文句を言わないし、いつもいつもというわけではないにしろ、お寿司を運んできた板場の若い男に、慣れた雰囲気でお金の支払いを済ませていたのだから、まぁ、高級な料理をたまには食べることだってあるはずで、今日がそのたまたまだったのかもしれないけれど、と郁美は、口のなかでプツプツと小さな音が鳴っているような新鮮なイクラを咀嚼しながら、軍艦にたっぷりと盛られて溢れそうになっているウニを頬張る綾を見て想像し、ねぇ、あたしさ、ちょっとインターネットでチャットレディーについて調べてみたのだけれど、と尋ねる。
インターネットでチャットレディーについて調べてみたら、いろいろなサイトで「高収入バイト」とか「安心・安全で今すぐにでも働けます」とか「誰にでも空いた時間で手軽にできる」とか「本業があっても大丈夫、ノルマはありません」とか「顔を出さなくてもOK! 誰にも知られずに秘密に働くこともできます」とか「あなたのガンバリ次第で収入はアップ! 報酬は日払いも可能です」とか、なんというか、いかにもコマーシャル・コピー的な甘い言葉が書いてあるけれど、お姉ちゃんが仕事として働いてみて、実際のトコロはどうなのかなって、と郁美が尋ねると、綾はウニをコクリと飲み込んでからゆっくりと切れ長の目を向け、う~ん、あんたさ、そういうクドクドしく説明するところ、友達の女の子からウザったがられない? まぁ、いいけれどさ、と返してから、ライブチャットサイトもそういう宣伝文句でネガティブなことは基本的に書かないだろうしね、とお寿司の桶についてきた紙製のナプキンで両手を拭き、何? あんた、チャットレディーの仕事に興味があるの? と言葉を続け、郁美が何かを答えるよりも先に、あたしはオススメしないけどね、と紙ナプキンを丁寧に四つ折りにして桶に戻し、あんたがチャットレディーの仕事をしたいって「どうしても」考えているのなら止めはしないし、働けるサイトを紹介するのは構わないけれど、と真面目な顔で言い、ひとつ溜息をつく。


どうしても、したいこととか将来のやりたいことが見つからないし、正確に言うなら「見つける」ための「モチベーションに」にも欠けていて、それは何に不自由することもなく「普通」にこれまで生活してきて、当たり前の、初めから決められていたことのように、何の疑問ももたず、母親や姉が卒業した中高から大学まで一貫の私立の女子校に入学したわけだし、特別に受験の勉強が必要のない学校なのだから、好きに使える時間がたくさんあるし、そのうちに興味のあることが見つかるだろうと漠然と考えていたら、もうあっという間に大学二年生になってしまっていて、気持ちが焦るということはないけれど、来年には就職活動をはじめなければならないし、本当は将来のことやアレやコレやを決めなければならない時期なのに、今はただただ気ままに自由に使える時間を引き延ばして「時間を稼ぎたい」という気持ちになりもし、そうした気持ちを上手く両親や姉に伝えることのできないもどかしさ、というか、内面を表現するのにぴったりと当てはまる言葉を見つけられないことにも苛々して、郁美はつい溜息をついてしまうのだけれど、八つ歳上の綾は、早く家から出て一人暮らしを希望していた――マルグリッド・デュラスがどこかで書いていた、若い娘は、自分の母親は気が狂ってる、と思う時期がある、っていうのは当たっていて、やっぱり、少しでも早く家を出たかったんだよね、あんたも何か「こうしたい」ってことがあるなら、きちんと行動しないと、ズルズルとそのままになっちゃうから、気をつけなよ、と綾は言う――から、薬学部のある国立大を志望して入学し、薬剤師の資格をとって医薬品メーカーに三年程勤務していたのだけれど、ちょっとしたことで体調を崩して――母親は精神的なストレスによるものではないか、と言うけれど――自宅療養をしなければならなくなり、はじめの一年は会社の福利厚生で休業として処理されていたものの、休業して二年目に突入する折にすっぱりと会社を辞め、自宅で働くことのできる、今のアダルト・チャットレディーの仕事をはじめて、いつまで続けられるかわからないけどね、と綾は仕事そのものは気に入っているみたいで、そういう姿を見ていると、急にかすかな不安というか「あたしは何をしているのだろう」と一人ぽっちのような気分になり、郁美はふいに軽いめまいの感覚を覚え、だから、「これから」のことを今は何も考えたくないのだ、と思い、思い続ける。


どうしても興味があるなら別だけどね、と綾は言葉を切り、既に起動していたPCのインターネットのブックマークから、チャットレディーとして登録しているサイトのトップページを開き、これが最初に男性の閲覧するページ、とマウスから手を離してディスプレイを郁美に見えやすいように動かして、黒が基調となっていてアクセントにピンク色が使われているサイトのトップページには「素人娘の過激オナニー」とか「桃尻娘の潮吹きオナニー」という男性の性的な欲求を惹きつける文字が並び、もちろんね、サイトは男性を集客するために効果的な宣伝をしなければならないから、人目を惹きやすいキャッチ・コピーを考えるものだしね、と郁美にというよりも自分自身に語りかけるように細い声で話し、いろいろな男性会員がいるから一概には言えないけれど、ライブチャットサイトはそういうことを目的にした男性を集めているから、イヤなこともたくさんあるし、男性は皆エロイことが好きとかって考える子もいるみたいだけれど、それは悪いことばかりというわけでもなくて、イイこともあるけれどね、でも、お母さんのつくった「白桃のタルト」のように甘いお話しとは言えないんだよ、残念ながら、と言い、郁美が何も答えずにいると、すぐに指先でサイトのページを閉じて、甘くはないんだよ、ともう一度繰り返す。


そうして、それから、そう、母親の「ねぇ、それで、アヤちゃんの様子はどうだった? 元気にしてた? 変わったところはなかった?」と繰り返し聞く質問に苛々しながら、「別に」と郁美はその度に答え、そんなに心配なら自分でお姉ちゃんのところに顔を出せばいいじゃない、と思いはするものの、「白桃のタルト、美味しかった、ありがとう、ってお姉ちゃんが言ってたよ」と言ったときに母親の見せる無邪気な笑顔に、余計なことを言うもんじゃないよね、と軽く自制心を働かせ、それに、「白桃のタルトだけでは何が何でもお土産として寂しいし、イクミちゃん、アヤちゃんのマンションの近くでさ、適当にコレで何か買って、もっていってあげてよ」と母親から手渡されたお金がまだ郁美の財布のなかで十分に残っている――ピーコックストアで、二人で飲むために白ワインを購入したけれど、それほど高級なものは二人とも味がわからないから、適当にショップの店員の勧めるままに「安いけれど飲みやすい」というものを買った――から、母親をイヤな気持ちにさせることもないし、と郁美は小言を控える。
イクミちゃん、あんたもそろそろ、いろいろなことを考えなくちゃいけない時期なんだよ、という母親の、「いろいろ」をゴティク体で強調するみたいな嫌みたっぷりの言葉を思い出しながら、郁美は、綾に教えてもらったアダルトライブチャットサイトのトップページにアクセスし、そう、それから、小さくボックス型に仕切られた箱のなかのゴディバのチョコレートのように並んでいる、女性の2.5×3.0センチ程度の写真画像を眺め、マリメッコのマウスを動かし開いているウィンドウをスクロールして、サイトにはどのような女の子が登録しているのだろう? とファッション雑誌に目を通すように見ていると、女性の郁美が見てもキレイでカワイイ、女性誌のモデルとかテレビのお天気キャスターとかに登場しそうな「女の人」がログインしていて、つい、そうした女の人が男性に向けて本当に「過激なオナニー」をするのだろうかと疑問に思いながら、ドキがムネムネではなく胸がチクチクと締め付けられる気持ちになり、何かから(何か? とは何?)逃げるように、サイトのページの「リロード」ボタンを押すと、一瞬の間があってウィンドウズ・エクスプローラーが情報を読み込み、ページが更新され、左上の端にハニーブラウン色のボブスタイルの髪に切れ長の大きな目が印象的な整った顔立ちの女性の画像が現れて、アレ、と郁美は、この女性の顔はどこかで見たことがあるのではないか、と記憶のなかのこんぐらがっている糸を解し、そうだ、この女の人はあたしの通う大学の「心理学」の講座で助手を務めている「フェミニストの、ジェンダー論者」ではないかな、と思い当たり、かすかに震える指でマウスを動かし、画像をクリックする。
去年の冬に学校の友達と買い物に出掛けた時に見つけた、ジル・サンダーの黒いドレス風キャミソール――大学生の、バイトもしていないあたしには高くてとても手が出せないけれど、どうしても欲しかったキャミソール――を身につけたあの女の人は、プロフィールに男性に向けた自己紹介の文章――はじめまして、ウタです。覗いてくれてありがとうございます。どんな男の人との出会いがあるのかドキドキしてます。待機中はいつもドキドキしてちょっと挙動不審かも、ですが、インした途端に笑顔であなたのことをお出迎えしますので、よろしくお願いしますね。初めはちょっとだけ人見知りするかもだけれど、ココロを許した人には、暴走ペースで話しちゃいます(笑) 話しやすいね、とかって普段から言われることが多いけれど、お話しもエッチなことも大好きなので、トークもプレイも楽しんでもらえるように、頑張ります。それと・・・ウタはちょっぴりMなので、優しく言葉で焦らされたり責められたりすると、もう、大変なことになっちゃいます(笑) 最後に、お互いに楽しい時間を過ごせればいいな、と思っています。あとあと、無言落ちは悲しくなっちゃうので、もし何かがあって落ちてしまったら、メールをもらえると喜びます。小難しいことを書いちゃいましたが、二人にとって素敵な時間になればいいな、って。いつでもお待ちしていますね――と何枚もの写真を載せていて、真っ白なベッドシーツに物憂げに横たわり、唇に右手の人差し指と親指を柔らかくあてているものや、正対した端正な顔のアップのもの、細長いすっきりとした脚のラインが強調された膝立のものなどを見ていると、ふいに「起きなさい」という言葉が小さく耳に響き、郁美はピクリと身体を震わせ、周りに聞こえてしまうのではないか、と思うくらいにドキドキと鳴っている心臓を無理矢理に手で押さえつけるように、そう、身体のなかで何かが起き出そうとしているのを抑えつけるように、淡いスミレ色の、襟元から鳩尾のあたりまでV字に大きく開かれた、細かいプリーツが全体に折り畳まれたワンピースの胸元に右手を強くあてて目をつむり、鏡を見れば真っ赤になっているだろう自分の両耳とか頬に感じる「熱」を意識しながら、左手をドレスの裾口に差し入れ、おそらく、多分、きっと、そう、「今」自分の身体のなかでもっとも熱くなっているのではないか、と恥ずかしさとともに感じるはっきりとした「熱」に驚きながら、あたしの敏感な部分がどうなっているのだろう? ということを知りたいからと理由をつけて、縁に細かなレースのついたランジェリーの生地越しに、そこをそっと中指で触れると、小さな小さな吐息が洩れ、その声にも恥ずかしくなりながら、桃の匂いのした吐息にぷつぷつと記憶が泡立ち、初体験の相手の男性が穏やかに郁美の耳元で囁いた、「君は桃の匂いと味がするね」という甘美な言葉を突然、思い出す。


ああいう男は自分の女性経験を周りに自慢気に話すタイプだから、あんたも気をつけなよ、と綾は「あたしは大丈夫だけどさ」という自信たっぷりな調子で話すから苛々するし、若くて優しい歯科医師は高校生の郁美にとっては大人で魅力的な男性に見えたのは確かで、大学生になった今なら「ああいう男にはひっかからない」はずだし、セックスが上手かったかどうかははっきりと憶えてはいないけれど、少なくとも「乱暴」にはしなかったのだから、初体験の相手としては「悪くはなかった」のだ、と郁美は考える。
親知らずを抜くために通院した歯科医の医師は、患部を見せるため、郁美に小さな子供用の手鏡――プラスチックの裏面にハローキティーのイラストが描かれている――をもたせ、白いマスク越しでもわかる穏やかな口調で、見えますか? このちょうど赤くぷっくりと腫れているところが親知らずのあたっている箇所で、出血するほど傷ついてはいないけれど、冷たい飲み物を飲んだり、何か硬い物があたると、痛いでしょう? と言い、リクライニングする治療台に座り、大きく口を開けて熟れた桃のような色をしている腫れた患部を若い歯科医師と一緒に見ていると、郁美は急に恥ずかしくなり、わかりました、と手鏡を太腿に降ろして俯き、歯科医は麻酔をするための注射器を用意しながら、シートを倒しますね、麻酔が効いてきたら親知らずを抜きますから、と言い、リクライニング・シートが完全に倒されるの待ってから郁美はゆっくりと目を閉じ、口を開けて、という穏やかな声とともに若い医師のビニール製の手袋に覆われた指が唇に柔らかく触れ、とても健康的なピンク色をした桃のような口腔だから、赤く腫れている箇所がすぐにわかりますね、それに、桃の甘ったるい匂いがする、と医師は続け、力を抜いて下さい、という言葉に合わせてゆっくりと銀色の注射器の針が郁美の患部に刺さり、麻酔剤が注入されていくのを感じながら、郁美は「私はこの人とセックスをするのではないか」と想像する。
光にあたるといくらか白っぽく見える透明な耳の柔毛を揺らすように囁かれた「君は桃の匂いと味がするね」という若くて優しい歯科医師の言葉は、性交の後の、気怠さと満ち足りた感情とが混じるフワリフワリと軽い羽毛が空気のなかを舞うような浮き立つ気持ちを愛撫し、全身にキスしてくれて、はじめてだったのに、全然痛くなかった、と郁美が若い娘らしい恥じらいで彼の胸元に頬をぴったりと寄せたまま目を合わさずに言うと、わずかにブラウンの混じる郁美の黒髪を細い指で撫でていた医師は、君の身体から桃の匂いと味がして、全身をキスで埋め尽くしたくなったんだ、と笑い、君の桃色をした敏感な部分から甘いものが溢れてくるから、と続け、郁美の太腿の間に指を柔らかく差し入れ、桃の匂い、わかる? と耳元で尋ねる。


淡いスミレ色の襟元から鳩尾のあたりまでV字に大きく開かれたワンピースの胸元から、ゆっくりと指をドキドキと波打っている左の胸の上に這わせ、張りのある乳房の形を確かめるように周囲をなぞり、手のひらの全体で乳房を掴み閉じていた目をゆっくりと開くと、ライブチャットサイトのトップページに並ぶたくさんの女性の写真が郁美を見ているようで、皮膚の表面が剥がれ落ちてしまうのではないかと思うくらいに顔が熱くなって、多くの男性から性的な視線で見られながら艶かしく魅力的なパフォーマンスをするアダルト・チャットレディーと自分自身とを重ね合わせて想像していることに、恥ずかしさよりも初体験の後の、あの浮き立つような気持ちになり、母親のつくった「白桃のタルト」の甘い味が口腔に広がって、こくりと唾を飲み込むと、もう、随分前に治療したはずの親知らずが急にチクリと痛む。
痛むのは最初だけ、とか、最初だけチクリとするかもしれない、と若い歯科医師が言ったのは、はじめての性交についてだったのか、それとも麻酔の注射のことだったのか、郁美ははっきりとわからなくなる。


それにとても時間がかかったのだし、webカメラとマイクの設定をするだけでも、綾に教えてもらわなければあれほど短時間につなぐことはできなかったはずで、あたしはマッキントッシュのことはよくわからないから、と、携帯電話で郁美にチャットをするための準備説明をするのが途中で面倒くさくなった綾は、もう、さ、明日にしなよ、今つながってもさ、誰も話し相手がいないって、と言い、とりあえず、チャットに慣れるためにも「Skype」でも試してみたら、って言ったのはお姉ちゃんなんだからさ、最後まで責任をもってよ、と郁美が反論すると、それはちょっと違うなという綾の声に合わせて通話口の向こうから缶ビール――あたしは、最近、「麦とホップ」に凝ってて、もちろん、お寿司に白ワインというのも悪くないけれど、折角なら、「麦とホップ」がお土産に欲しかったな、と綾は、サーモンのお寿司を頬張りながら言い、ピンクベージュの唇についたサーモンの脂を紙ナプキンで丁寧に拭き取る――のプルトップを開けるプシュリという音が聞こえ、試してみなよ、と言うのはさ、経験を積むという意味であって、あんたみたいに手取り足取り教えてもらっていたら、最終的には「試す」ということにならないじゃない、だからさ、「最後まで」っていうのはちょっとどうかな、と思うけれどね、と言ってからコクリコクリと喉を鳴らし、ふぅ、と一息ついてから、で、何の話しをしていたんだっけ、とこの期に及んで「空気の読めない」発言をするので郁美はいくらか苛々して、「Skype」に登録して、お姉ちゃんのトコロにアクセスできるようになったらまた連絡するから、と携帯電話を切り、あたしは機械オンチだし、だって、大学の勉強に必要なのではないか、と、デザインが気に入って購入したマキントッシュの「imac」は、レポートを書くためにワードを使ったり、eメールやらインターネット以外ではほとんど触らないのだから、あたしはチャットレディーに向いていないのではないか、と郁美は溜息をつく。
それからどのくらいの時間が経ったのかはっきりとはしないのだけれど、コットン地の黒いドルマンスリーブのV字に開いたネックカットソーを着て、肩までかかるセミロングのハニーブラウン色の髪をオールバックのようにアップにした綾の顔が画面のウィンドウに表示されると、郁美は小さな声が洩れそうになり、ピンクゴールドのグロスがまだ残っている下唇を歯で強く噛み、ふい、と顔を横に向けると、綾は、何、あんた、失礼だね、自分から連絡しといて、あたしの顔はそんなにソッポを向きたくなるほど怖いわけ? まぁ、お風呂上がりだから仕方ないけど、さ、と笑い、そんなんじゃないから、と郁美が言葉を返すと、ゆっくりとした口調で、おかえりなさい、と綾は言う。
――おかえりなさい、イクミ
はじめて、というのは誰だって緊張するものだしね、ほら、もうちょっとだけ、webカメラを意識して視線を上げてみると顔の見映えが変わるから、と綾は言いながら黒のコットン地のドルマンスリーブの裾口がもっともフレアになっている肘のあたりを摘んでもちあげ、一度画面上で視線を合わせてしまえば、そんなに恥ずかしくないから、と続ける。「はじめて」という綾の言葉に心臓がピクリと撥ね、右頬に手を当てて「ああいう男」の薄いビニル製の手袋がはめられた指の感触が唇や口腔に広がらないように小さく溜息をつき、ねぇ、お姉ちゃんもはじめてのときは緊張したの? と郁美は尋ねると、綾がアップにしたハニーブラウンの髪を指で柔らかく掻き揚げながらほんの少し首を傾げるのが見え、ああ、チャットのことではなくて、はじめて「セックス」したときのこと、と「そんなことを訊くつもりではなかった」のに、マイクを通して郁美の声が響き、そう、初体験は緊張した? と問いを重ねる。
薄い、淡いハチミツ色の照明の光が画面を染め、黒のコットン地のドルマンスリーブと空気との境界線がかすかに揺らめいているように見え、綾はゆっくりと傾げた首をもとに戻し、まぁ、あんたほど舞い上がっていたわけじゃないと思うけどね、と言い、熟れた果物に歯を立てると口腔から唇に果汁が溢れるように生まれたばかりの「恥ずかしさ」が急に郁美のなかで大きくなり、言葉を返せずにいると、白桃のタルトではないけれど、桃ってさ、ぽやぽやした透明でちょとだけ白色がかった毛が生えている皮を剥いて空気に触れた途端に、少しずつ甘ったるい白さが薄い茶色に変化していくじゃない? あれとおんなしでさ、すぐに「緊張」は解れるんだよ、セックスだって、チャットだってね、と続け、郁美が恥ずかしさとごく軽い嫉妬――嫉妬とは誰に?――を誤魔化すために、お姉ちゃんの初体験の相手ってどんな人? と尋ねると、綾は、両手でドルマンスリーブの肩口を親指と人差し指でつまんでもちあげてから離し、ファサりとコットンが白い肌に落ちると同時に、誰でもないよ、と答え、それから、誰とは言えない、その「誰」は存在しないんだから、と言った。


歳が八つも離れていたし、郁美が中学に進学する頃には既に実家を出て一人暮らしを始めていたから、綾と好きな男の子とのことや恋愛のアレコレや思春期の女の子が気になる「セックス」についてのことを話す機会などほとんどなかったし、あんたって、さ、どうしてああいう男のことを好きになるんだろうね、とか、すぐに一目惚れをする癖に一途に相手のことを想うタイプよね、とか、高校生の頃は歳上の社会人なんて好きになるもんじゃない、そのときは一度きりしかないのだから歳上の男性よりも同い年のさ、男の子と恋愛したほうがいいね、とか、冷ややかに「あんたはさ」とからかわれる以外には、まともに姉妹で恋愛相談をすることもなかったから、「大人の女性的恋愛観」だとか「セックス観」などは、女性雑誌に載っている「男の子を狙い撃つ女の子のタイミング」とか「男を見る目をとことん磨く」とか「大人の、幸福なセックス」とか「友達には聞けない女の子のセックスの悩み特集」などの知識しかなく、ごくたまに綾の住んでいる一人暮らしのマンションに遊びに行ったときに見かける『anan』や『SPUR』などのページをパラパラとめくりながら、雑誌ライターの書いた大人の女性のココロに響く文章を読んで、ふ~ん、そんなものか、と思うばかりで実体験としての恋愛観やセックス観を知ることなどなかったので、中学からの親しい同級生の友達の織恵ちゃんのお姉さん(オリエちゃんとは三つしか歳が離れていないから、大人だけれど、とっても話しやすい)が話す、エッチについてのアレコレや「男って、ほんとアレのことしか考えてないんだよね」という言葉にドキドキしながらもつい興奮していろいろと質問していたのだったし、だから、お姉ちゃんときちんと性体験のことについて話しを「今」聞きながら、もうセックスの話題に恥じらう年齢でもないのに、どうしても恥ずかしくって顔を画面から背けたくなる、と「Skype」でつながっている綾の落ち着いた顔を見ながら、郁美は考える。
薄く、ヒマワリの花びらよりもずっと淡いハチミツ色の照明と綾の着ているドルマンスリーブの濃い黒色と、コットン地のために柔らかく身体に重なる襟元から覗く真っ白な肌とが画面のなかでゆっくりと混じり、粗い解像度の映像が一瞬はっきりくっきりとして、綾の唇に縦に走る透明な線までもが見えたような気がして、郁美がコクリと喉を鳴らすと、ゆっくりと、唇が開かれる、というよりも形そのものが柔らかく変化するような自然な動きで、唇から言葉が洩れる。
あんたの訊いた、その「誰」というのは存在しないんだよ、と綾はもう一度繰り返し、存在しないというのは「いない」ということではなくて、あり得ない、ということで、答えとしては「私は男性とのセックスの経験がない」ってこと、わかる? と続け、まぁ、隠すことのほどでもないし、今までも「処女」だからって特別に負い目やら何やらを感じたことがなかったから、話すのがイヤってことでもないのだけれど、わざわざ妹に自分から話すこともないでしょう? と切れ長の目尻が軽く下がり口角を柔らかく上げていくらか笑いの混じる声で話し、郁美がゆっくりと伏せがちになっていた目線を上げると、綾のアップにしたハニーブラウン色の髪が透け、柔らかな表情やドルマンスリーブに覆われていない肌の部分が映像に溶け出し、真っ白な光が画面に溢れ、消える。
私はそのとき、何かお姉ちゃんに声をかけたのだろうか? それとも、何も言わずに画面を閉じたのだろうか? そうではなくて、私も画面のなかにお姉ちゃんと一緒に溶けてしまったのだろうか? と郁美は考え、考え続ける。


東急ハンズで母親が買ってきたジョエル・ロブションのステンレス製の果物ナイフは、柄の部分がが手のひらにフィットしやすい形状――母親は、ロブションの果物ナイフを買ってきたときに、何がいいってもちやすいことほど、ナイフにとって必要なことはないし、そう言えば、ドアや窓ノブの形は男性器をモチーフにしてつくられた、とどこかで聞いたことがあるけれど、このナイフの柄もそうなのかもしれない、と手のひらで優しくつまむ――をしているので、野菜や果物の皮むきが苦手な郁美にとっても、簡単に扱うことができるから重宝していて、コップに水を注ぐとか手を洗うなど以外で滅多に立つことのないキッチンで、ふわふわとした手触りの細かな透明な細い柔毛が皮を覆っている白桃の皮をむいていると、対面式のキッチンカウンターで肘をつきながら郁美の皮むきを見ていた母親は、何だかあぶなっかしくてちょっと見ていられないけれど、イクミちゃん、どうして急に「白桃のタルト」をつくりたい、なんて思ったの? と尋ね、気を許して言葉を発すると指を切ってしまうのではないか、とか、指に力が入って柔らかい桃の実を傷付けてしまうのではないか、と郁美が黙っていると、まぁ、お姉ちゃんが美味しいって言ってくれたものをつくってもっていってあげるなんて、上出来な妹じゃない、と、じょうできを強調しながら母親は言い、ねぇ、ちょっと、黙って見ていたけどさ、ほら、左手はもっと優しくそんなにぐっと力を入れなくてもいいんだからね、そうすると、桃を廻しにくいじゃない、と小言を続け、でも、大分上手になってきたね、と笑う。
つくり立ての、できあがったばかりの「白桃のタルト」をきれいに箱詰めにするために、母親はキッチンに備え付けの棚から適当な大きさの箱をいくつか取り出して、イクミちゃん、後はやっておくから、出掛ける準備をしてきたら、どうせ、時間がかかるんでしょ、と言い、うん、お願い、と郁美は声をかけて階段を上り、自分の部屋のベッドに横になって目をつむり、今日は何を着て出掛けるか(外は暑いから、さっぱりとした白のワンピースにしようか)とチャットレディーとしての自分のハンドルネームについて考えていると、どこかから、甘ったるい声でイクミちゃん、と呼ぶのが聞こえたような気がしたけれど、郁美はうとうとしてしまう。


それから、そう、それからどれくらいの時間が経ったのかはっきりとはしないのだけれど、郁美は横になっていた無印良品で大学の入学祝いに買ってもらったベッドから起きて、起動していない「imac」の前に座りひとつ溜息をついて、真黒な画面に向かって笑顔をつくり、ゆっくりと口を開く。
「はじめまして」と誰にともなくかけた声は室内に吸い込まれ、「おりひめ、と言います」と続けると、ふいに、綾の「桃の実は、空気に触れた途端に、少しずつ甘ったるい白さが薄い茶色に変化していくじゃない?」という言葉が耳の奥に響き、「白桃のルール」と呟くと軽いめまいの感覚を憶え、口腔のなかに桃の甘い味とかすかな鈍い痛みが広がり、頬を指で抑えると、「よろしくね」という挨拶の言葉がでなくなって、甘美な桃の甘さに息苦しくなり、目を閉じる。
――あたしの口のなかは、あの熟れた桃のように赤く赤く腫れ上がっているのだろうか? 今?――


「はじめまして、おりひめ、と言います、ひめって呼んで下さいね、よろしくお願いします。
あなたの文字として書いた願い事、あたしが叶えてあげます」














というわけで、今回の記事は、「ライブチャット用語集・・・初めてのライブチャット入門」の管理人タクイチロゥさんが主催する企画、「第一回 読むだけでイケる官能小説コラボ」に参加させて頂くために書いたものです。




この記事は、官能小説コラボに参加しています。


官能小説コラボ-その1



Comments:14

タクイチロゥ URL 2009-08-01 (土) 10:02

> おそらく、これから怒濤の官能シーンが(笑)


読者の想像の余地を残さない程の細かい描写力で、
どれだけ妄想させていただけるか!?
相反することを言ってるみたいですが、そこにこそ
有為さんの真骨頂があるのでは?
・・・と非常に期待していますです☆

急なリクエストに答えていただき感謝です!

すず URL 2009-08-02 (日) 01:47

「白桃」と言う言葉はエロっぽいので
好きな言葉です☆

このタイトルにどういう深い意味があるのか
はたまた白桃はエロにどういう風に関係あるのか
続きが楽しみです☆

有為。 URL 2009-08-02 (日) 03:13

コメント、ありがとうございます。

こちらこそ、途中の段階でトラックバックしてしまい、申し訳ありません。
「細かな描写」が読んでいる方のさまざまな記憶と結びついて、素敵な「妄想」になることを目論んではいます(笑)
プツプツと泡立つ記憶と文章――そうしたものが少しでも表現できていればよいのですが、なかなかむつかしいですね。

期待に応えられるよう、頑張ります(笑)


有為。 URL 2009-08-02 (日) 03:16

コメントありがとうございます。

桃、という言葉が好きなので、よく文章に登場させてしまいます。
あの、甘美な形と色と味――などと書くとまた描写してしまいそうになるので、ここで止めておき(笑)

タイトルに目をつけられたのは、さすが、鋭いですね。
驚きました。
このストーリーはこの次にアップされている『黒衣のガール』とつながっています。
白桃と黒衣がエロとどのような関係があるのかは今後のお楽しみということで(笑)

azusa♪ URL 2009-08-02 (日) 08:46

続き楽しみにしてますね♪
読んでるだけで映像が浮かんでくるような不思議な感覚・・・
惹きこまれてました!!
今もまだ文章の中を泳いでいるような・・
このフワフワ感がたまりません><;

有為。 URL 2009-08-02 (日) 09:43

コメントありがとうございます。
「続きを楽しみにして」いると言ってもらえて、嬉しいかぎりです。
書く、モチベーションが上がります、単純なので(笑)

「文章の中を泳いでいるような」という比喩は、とても素敵で、ありがたいです。
一つの文が長いので、読みにくいかとは思いますが、「フワフワ」という感じをもってもらえたなら、幸いです。

みう URL 2009-08-02 (日) 21:50

桃、食べたくなっちゃいました♪
しかし本当に情景を細かく書けるお方ですね。
みうには絶対無理ですぅ
(● ̄▽ ̄●;)ゞぽりぽり
読んでいて綺麗なお姉さんを思い浮かべていました。

有為。 URL 2009-08-03 (月) 11:52

コメントありがとうございます。
「桃が食べたくなった」と感じてもらえたら、書き手としては嬉しい限りです。

みうさんのように、きちんと正確に言葉で情景を表すことができれば、それが一番だと思います。
この文章はいくらか「冗長」過ぎますから(笑)

私もキレイな「お姉さん」を想像して書いています(笑)

エヌ URL 2009-08-04 (火) 13:26

あああ!
遂に「ジェンダー論者」のウタさん登場でたまらなくなりました!

上手い!!上手過ぎる!!!十万石饅頭の様に、いやいや
「白桃のタルト」の様に薫る少女の首筋。その白さ。
歯科医にされるがままに開かれた少女の桃色の口腔の腫れ。

「性行為」を感じさせない筈の「医療行為」にエロスが・・・
まるで映画のように「白衣」と「銀食器の輝き」と「ピンクの少女の肉」だけの
色彩が鮮明に画面を横切っていきます。

物語が一旦区切りを見せたようでしたので失礼ながらコメントしました。
この先物語が絡んでいくのか・・・興味は尽きませんが。

#ああ「黒衣のガール」読むのが楽しみ・・・ww

RMKS:先週私も「抜歯」しましてww暫くは痛みで何も出来ませんでした。
     両下奥歯の「親知らず」に至っては、過去「口腔外科」等と言う恐ろしい医療機関で
     ゴーグルをした医師に機械で「摘出された」経験がありますww

#全然カンケー無いすね;;

RMKS2:コチラのサイトも同じテンプレートになりましたね。

有為。 URL 2009-08-04 (火) 23:22

コメントありがとうございます。

少女の桃色の腫れは、どうしても書きたかったので、初体験の相手が歯科医師になりました(笑)

私たちはいろいろなところで性行為を擬似体験しているわけですね、多分。
私も歯垢とタールの除去のため、定期的に歯科に通っています。
理由は単純で、担当の歯科医師が女性なのです(笑)
無防備な状態の口を「治療」されるのは、いろいろな意味でイタイ、です。

テンプレートの変更ですが、コレは自分自身が文章を読みやすくするためです。
以前のものは、少し横幅があり過ぎて、ストーリー系のものだと読みにくかったので・・・
コレで少しでも読みやすくなったのなら、嬉しいです。


エヌ URL 2009-08-09 (日) 02:27

しばらく買わなかった週刊誌の漫画が
最終回を迎えて、それをコミックスとして手に取る。

結末迎えましたね。おめでとうございます。
コチラのストーリーには残念ながら「怒涛の官能シーン」wwは無かったようですが
最後の郁美ちゃんの独白に可愛らしさと
「おとなの女の入り口」を感じて、寂しささえ覚えました。

粘膜の接触である歯科医療と性行為が
こんなにも近しいエロティシズムを感じさせてくれるのも
新しい発見でした。

願わくば「白桃」の白いままの香りだけを
いつまでも楽しみたい。

有為。 URL 2009-08-09 (日) 13:49

コメントありがとうございます。
やはり、怒濤の官能シーンはむつかしいですね(笑)
一応、エロティシズムには配慮はしましたが。

この「白桃のルール」に登場する綾と郁美の家庭は、ある程度裕福なものを想定しました。
まぁ、グローエの水洗がある家、なわけですから(笑)
とくに、郁美はアダルトチャットレディーとして仕事をする特別な理由などはないのです。
だけれども、何かに惹かれるようにその世界に脚を踏み入れる。
そう、初体験のように。
「おとなの女の入口」であると同時に、出口のない私という存在を強調させたく、ああした最後の独白を加えました。

「歯科治療と性行為」は確かに近しいエロティシズムがありますよね。

空気に触れさせずに、桃の実の色や香りを楽しむためには、皮をむかずに想像するしかない、というのが「ルール」ではあるのです(笑)


タクイチロゥ URL 2009-08-10 (月) 19:58

まずは、本作品は完成とのこと、お疲れ様でした☆
オシャレ用語に疎いので(常識知らずとも言うかもw)、作品を印刷してググりつつ頑張っとりますw
でもね!縦書きにして印刷したら、もうそのまま出版できそうな!
13,000文字オーバーの大作でした。
「黒衣の…」読了次第感想書かせていただきますね!
風邪のほうはいかがです?
コラボ期間気にせず、ご自愛くださいませ。

有為。 URL 2009-08-11 (火) 00:49

タクイチロゥさんへ
コメントありがとうございます。
いえいえ、オシャレ用語というか、裕福な家庭を描きたかったのと、後は個人的な趣味です、すみません(笑)

13000字もあったんですか、それはわからなかったです。
「黒衣の~」はゆっくりと完成を目指します。
風邪は大分治まりまして、本日と明日は仕事です。
また、お盆休みに入ったらゆっくりとしようかな、と思っています。
ご心配、ありがとうございました。

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